去る2024年11月16日(土)-17日(日)、「Festival of Modular 2024 Tokyo(FoM)」が開催されました。
2013年に、前進となる「Tokyo Festival of Modular(TFoM)」が開催されてから、今年で11年目を迎える日本最大級のモジュラーシンセサイザーイベントです。
今回から主催が変わり、イベント名もFestival of Modularに刷新。会場も展示会場とライブ会場の2拠点開催になるなど、装い新たになりました。
そんな新しいスタートを切ったFoMより、国産メーカーのブースの様子をお届けします。
国内外のモジュラーシンセメーカー&ショップが集結
展示会場は代官山駅の改札を抜けて大通りへ出てすぐ、代官山UNITの近くにあります。地下に続く階段を降りると、広々とした会場にモジュラーシンセサイザーがずらり……!
オープンから少し遅れて入場しましたが、すでに会場の奥が見通せないほどの賑わいに圧倒。会場の熱気で少し暑いくらいです。
モジュラーシンセって、他の電子楽器と比較してニッチな楽器というイメージでしたが、この盛況ぶりを鑑みると、国内のプレイヤーは想像以上に多そうです。主催の阪口昌祥さんに聞いたところ、「モジュラーシンセを始めた人は長く続ける傾向があるので、プレイヤー人口は年々ゆるやかに増えているんですよ」とのこと。
1010music、4ms、Befacoなど、海外の有名ブランドも数多く出展!各ブースでは、新作モジュールや代表作が展示されており、もちろん試奏も可能です。メーカーさんから直接説明を受けながらモジュールを触れるのは、イベントの醍醐味ですね!熱量あるトークを聞いているうちに、体内のモジュラー濃度がみるみる上昇していきます。
ああ、ここにあるモジュールが全部欲しい……!
OSC兄弟:バリエーション豊富な会場限定アパレルが嬉しい
ルーティングに便利なカラーパッチケーブル「brother cable」を展開する、OSC兄弟(オシレーター兄弟)。今年は「brother cable」のバラ売り&会場限定セットや、会場限定アパレルなどを展開。
会場限定のTシャツ&パーカーは、波形をあしらったキャラクターがプリントされた“ゆるい”デザインです。個人的に刺さったのが、子供サイズのTシャツ。子供に向けたモジュラーシンセグッズってこれまでにあったでしょうか?OSC兄弟さんの心意気感じる、痺れるアイテムです。
このTシャツを着た子供が「パパ、サイン波!」って言っているところを目撃したいし、大人だってインテリアとして壁にかけたい。実際にお子さんに買って帰られた方もいるようです。
JAMMING:新作ロジックモジュール「LOGICaL」を展示販売
2023年9月にブランドを立ち上げて以降、精力的に新作をリリース。公式ECでは即完売が続く話題のDIYモジュラーシンセブランド「JAMMING」。今回は既存ラインナップに加えて、新作ロジックモジュール「LOGICaL」を展示販売していました。
「LOGICaL」は2つのCVを組み合わせ、その最大値・最小値をなぞって出力するロジックモジュール。LFOを混ぜるときに効果を発揮します!周期が同じで異なる波形同士を入力したり、周期の異なる同一の波形を入力したり……矩形波を組み合わせてゲートパターンを作るのも面白そうです。
また、ロジック機能に加えて三角波・矩形波を出力するLFOも内蔵。LFOは”Low Frequency Oscillator”という名前の通り、耳には聞こえないゆっくりとした電気の波形で、シンセサイザーのモジュレーションに使用することが多いですが、「LOGCaL」は波形の速度を選択するセレクターを搭載。セレクターを「Fast」にして波形の周期を速くすると、波形が可聴域に入り、オシレーターとして使うことも可能です。
また内蔵LFOは2chに内部決線されているので、掛け合わせる波形に困っても、内臓LFOがいつでも味方になってくれます。
DIYキットと完成品の2展開で、完成品でも1万円を切るお手頃プライス!この値段でロジック&LFOが手に入るなんて信じられない……!「表面実装などはなく、シンプルなモジュールなので、DIY初心者にもおすすめです!」と代表のJJさん。複数台ラックに組み込んでパッチングしても楽しいかもしれません。
P4L:只者じゃない新作ローパスゲート「LPG」
80KIDZのJUNさん主催のモジュラーブランド「P4L(Patching for Life)」では、新作ローパスゲート「LPG」を展示販売!
ローパスゲートは、バクトロールという部品の内部にあるLEDの発光を活かして、パーカッシブで独特なアタック・ディケイ感を形成する、モジュラーシンセならではのモジュールといえます。バクトロールのスペックが直にサウンドに影響してくる奥深さもあります。
P4Lではかつて、同名の2HPのパッシブ・ローパスゲートをリリースされていましたが、新作は貴重なニューオールドストックの高級バクトロールをつかった、4HPアクティブ・ローパスゲート!ブックラを彷彿させるデザインが非常に格好良いです。今夏リリースされたウェーブシェーパーモジュール「TIMBRE」も同様のデザインなので、2台揃えて使いたくなりますね。
「8HPで2チャンネルの『Make Noise Optomix』を半分にしたイメージですか?」と聞いてみたところ、「このローパスゲートは”おまけ”が面白いんだよ……」とJUNさん。
ゲートを入力して、モジュール左下にあるレゾナンスノブを回すと、自己発信してパーカッシヴなサウンドが飛び出てきました!サイン波ベースのサウンドで、ヘッドホン越しでもパンチがあり強烈。これはでかいスピーカーで鳴らしてみたい……!驚くべきは、オシレーターは一切使っていないということ。ローパスゲートってこんな音が出るんですね。キックなどドラム音源として使っても面白いとのこと。
もちろんバクトロールのサウンドも絶品!
Centre Village:高機能な2HPモジュールに新作が登場
「Cosmos Sequencer」をはじめ、ライブパフォーマンスや即興性に優れたハイクオリティな製品を展開する「Centre Village」は、2024年の新作「Cerasus Mixer」「S×S」「Mix」などを展示販売。Centre Villageさんご自身も、自社モジュールをつかって精力的にライブ活動をされているのが格好良い……!
Centre Villageさんのモジュールで特徴的なのは、縦フェーダーを使った2HPモジュールが多いこと。ベースフィルター「BF35」多機能オシレーター「SiO」などに続きリリースされた「Mix」はオーディオ信号で効果を発揮する2チャンネルのコンパクトミキサー。
「Mix」の特徴は、電圧が±5Vを超えると波形が丸みを帯びてくる“ソフトクリップ回路”が使われていること。高いオーディオ信号を入力した時に感じられる過剰なゲインを、なめらかに整えてくれるそうです。さらに2chは1chと内部結線されており、入力したオーディオのゲインを2倍にするブースターとしても使用可能。
そしてなにより、縦フェーダータイプのミキサーというのがそそられます……。コンパクトなミキサーにはマイクロノブが使われることが多いですが、一気にボリュームを絞ることが難しかったり、細かい調整が効かなかったりと苦労することがしばしば。フェーダーであれば頻繁にボリューム調整するシーンでも、高い操作性を発揮しそうですね!
Sdkc Instruments:アーバンで革新的な新作モジュールに恍惚
代表作「Helical」を筆頭に、ユーティリティと革新性を両立させたモジュールを展開する「Sdkc Instruments(定吉楽器)」。ユーザーがアッと驚く仕掛けを入れつつ、触って見ると使いやすい。個人的にアーバン(都会的)という言葉が最も似合うブランドだと感じています。
そんなSdkc Instrumentsさんのブースでは、ゲートジェネレーター、アッテヌバーター、Helical MIDIエキスパンダーなど新作を大量展示!
現在開発中のゲートジェネレーター「A Loop」は、トリガーを入力するごとに、トリガーが出力されるアウトプットがパネル上の矢印の方向に切り替わっていくユニークなモジュールです。ただランダムに出力されるのではなく、パルス幅を調整するPWノブ、ループがオンの際のループの長さを変更するLengthノブなどをつかって、ランダムとフィジカルのバランスを制御することが可能。
ランダムな演奏パフォーマンスに特化したソフトウェア「AudioStellar」がモジュール化されたような、アナログとデジタルの発想をミックスしたような……革新的で、これまたアーバンなゲートジェネレーター。発売が楽しみです……!
Hikari Instruments:世界を虜にする国内メーカーが魅せた、新たな美学
バーコード調のデザインでおなじみの、世界中で愛されている国産シンセメーカー「Hikari instruments」。本ブースでひときわ目を引くのが、新作のスタンドアローン機「VCO Controler」「4ch Mixer」!
ウォールナットのウッドパネルに包まれたこれらのモデルは、艶消しのブラックパネルで統一され、インダストリアルな印象を受けます!
個人的に特に刺さったのが、「VCO Controler」。このハードボイルドさ、どうですか?操作はフリークエンシーのダイアル1つのみ。所有欲そそられる、耽美なデザインです。
フリークエンシーを操作する独特な形状のダイアルは「バーニアダイアル」と呼ばれ、上段のノブを回していくと、下段のダイアルがゆっくりと回転していきます。通常のスタイルのノブだと得られない、なめらかで細かい波形の調整が可能なのだそう!
出力される波形は三角波・ノコギリ波・サイン波・矩形波の4種類。それぞれアウトプットから波形が同時に出力されているため、全ての波形を取り出すことも可能。バーニアダイアルを操作することで、スローなLFOも、オシレーターサウンドも手に入れることができます。モジュラーシンセと組み合わせることはもちろん、MonosやDuosのCV INとの相性も最高とのこと!シンプルゆえに、さまざまな用途が浮かびそうなコントローラーです。
moddict:開発者による、開発者のための新作モジュールを展示販売
格好良いのに、くすっと笑えるーー。スタイリッシュでエスプリの効いたモジュール&アクセサリーを展開する「moddict(モディクト)」が、新作「Just Eat Cake」を引っ提げて大阪から登場!
“ブレッドがなければケーキを食べればいいじゃない?”
そんなコンセプトでリリースされた本作は、なんとモジュラーシンセの回路設計に最適なブレッドボードモジュール……!
はんだ付けをせずとも、部品やリード線を差すだけで回路を組み立てられるブレッドボード。このモジュールは、モジュラーシンセの電源ケーブルからブレッドボードに電源供給が可能で、ユーロラックで使用される+12V/-12V/5Vの電源をそのまま使う事ができるそう。「こんなモジュール欲しいかも……!」と思い立ったら、すぐにテストできるユーティリティモジュールです。配線可能なボリュームやジャックも付いているため、他のモジュールとのパッチングも考えながら設計できそうですね!
代表のpolyshaftさんに作ったきっかけを聞くと「完全に自分が欲しくてつくりました」とのこと。まさに開発者による、開発者のためのモジュールなのです。
自分はサッパリわからない世界ですが、デザインがあまりに格好良いので、これを機に開発者になってしまいたくなります。
Signs Modular:パッチングの可能性を広げる新作シフトレジスタ「octa holdster」
高品質なモジュールを立て続けにリリースし、ひそかに話題となっている「Signs Modular」。ローパスゲートモジュール「pxl」はライブで愛用するプレイヤーも多く、知る人ぞ知るネクストジェネレーションなブランドです。
そんなSigns Modularさんは、なんと日本を代表するモジュラーシンセプレイヤー・Z_Hyperさんとタッグを組んで、新作のサンプル&ホールド・シフトレジスタモジュール「octa holdster」をお披露目!
シフトレジスタは、入力された信号が複数の記録装置(レジスタ)を通過していく回路で、これをモジュラーシンセに取り入れると、“トリガーが進むごとに、入力された信号が次の記録装置へ移り変わっていく”という、ユニークな仕掛けに。
もしレジスタが8個入っていて、レジスタごとに8個のアウトプットが付いているモジュールの場合、8個目のアウトプットからは、最初のトリガーで入力された信号が8回目のトリガーで出力される、ということになります。そのため、同一の信号を遅延(レイテンシー)して出力できるのが特徴でしょう。普段「信号を遅延させてえ!」と思って生きてないけど、そんな機能があると俄然やりたくなっちゃうのがモジュラーシンセです。
今回リリースした「octa holdster」は、サンプル&ホールド(S&H)を連結してアナログシフトレジスタを実現した、インスピレーション掻き立てるモジュール!トリガーごとに入力信号の電圧を記録しながら階段状のCVを生成するS&Hと、トリガーごとに信号が遅延していくシフトレジスタ。うーん、なんというトリガーのマリアージュ。ジャックが整然と並んだルックスは、なんとなく少年時代に感じたロマンを呼び起こします。
これらのジャックは左の列からトリガー IN・CV IN・CV OUT。CV INに何も入力しなくても、1chにはノイズソースが備わっているため、トリガーINだけで簡単にランダムCVが生成されます。
トリガー INを入力した位置によってモジュール全体がグループ化されるため、例えば上から5つ目のインプットに入れると「5つのS&Hシフトレジスタと3つのS&Hシフトレジスタ」という構成になります。すべてのトリガー INとCV INにパッチをした場合は「8つの独立したS&H」となるでしょう。
さまざまなパターンでS&Hを生成できるので、コンプレックスオシレーターなどCV INが豊富なモジュールを組み合わせると、予想外の出逢いがあるかもしれません。文字数がいっぱいになってきたので、続きはぜひ、実機を触ってみて……!
11月23日-24日は大阪で開催!
さて、一度に大量のモジュラー成分を摂取しオーバードーズしてしまった自分。
フラフラとドリンクカウンターへ向かい、ガソリンを摂取しながら顔を上げると、Bafacoや4msなど、まだまだ気になるモジュラーメーカーやショップがたくさん。しかし手元のG -SHOCKに目をやると時間はもう16時半。17時からはライブ会場でモジュラーシンセのコンサートが始まるので、そろそろこの会場ともお別れです。これはじっくり見ると1日じゃ足りないぞ……。
国内外のモジュラーシンセに1日中浸れる夢の祭典「Festival of Modular」は、11月23日(土)-24日(日)に大阪でも開催予定!
イベントは二日間構成で、一日目はワークショップ、二日目は各メーカーによるモジュラーシンセの展示販売&ライブコンサートとのこと。
さあ、あなたもモジュラーシンセに溺れてみてはいかが?
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Festival of Modular 2024 Osaka
フェスティバル オブ モジュラー 2024 大阪
2024.11.23 (SAT) 14:00-20:00 Workshop
島村楽器ロフト梅田店(大阪府大阪市北区茶屋町16−7 梅田ロフト 8F)
入場無料
2024.11.24 (SUN) 12:00-23:30 Concert & Exhibition
NOON+CAFE(大阪府大阪市北区中崎西3-3-8JR京都線高架下)
Exhibition: 12:00-18:00 (予定)
Concert:12:00-23:30 (予定)
TICKET:前売券 ¥2,500 + 1 DRINK / 当日券 ¥3,000 + 1 DRINK
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<文/お雑煮>