毎回好評価を頂いている電子楽器界隈のインタビュー連載ですが、今回はモジュラーシンセメーカーでもあるcentrevillage代表、せんとれさんにお越し頂きました。
—自分自身centrevillage製品を重用しています。
初めて買ったのは数年前のC Quencerのキットだと覚えていますが、シーケンサーとしては随分と個性的な印象を受けました。
現在でもモデルチェンジを重ねてデラックス版やミニ版を作られていますが、このシリーズにはそれなりに思い入れがあるのでしょうか?
製品の御愛用ありがとうございます!
自分がフレーズ生成シーケンサーに拘っているのは、モジュラーシンセにおけるシーケンス生成の自由度に魅力を感じているからですねー。
例えば、DAWでは決められたタイムグリッドに対して音を配置していきますが、その作業においては作曲者自身の驚きはほとんど起こりません。
それは、ピアノロール画面や楽譜画面に向かうとき、作曲者自身が経験によって築き上げたルールに基づいて音を配置していくためです。
そういう刺激の薄い作業を何時間も行っていると、その曲への情熱は次第に薄れていきがちです。
一方で、フレーズをリアルタイム生成するアプローチでは、曲の展開を想像しながらざっくりと変化させていくことができます。
フレーズを完全にはコントロールできないので、プレイヤー自身が飽きることが少ないです。
Mutable InstrumentsのMarblesなど完全にフレーズを自動生成してしまうモジュールもありますが、個人的にはモジュール任せになり過ぎる感じがしてあまり好きではないです。初代のC Quencerから最新のCosmos Quencerまで、ベースとなるパターンをモジュレーションしてフレーズを作るスタイルなのはそういう理由です。
既存ではそういうモジュールは知る限りないので、何より自分が必要だからこのシリーズは作っています。
—ピアノロールでは飽きてしまう、というのはよくわかります。
モジュラーシンセに慣れていくうち「打ち込み」作業が嫌になっていってしまうんですよ。フレーズ生成シーケンサーは「どこまで機械に任せるか、どこからプレイヤーの意思を反映させるか」の匙加減が肝ですよね。製品によってプレイヤーの意思で決められる範囲が違うので何個も買ってしまいます。
一番気に入ってるのはVERMONAのmeloDICERですが、幅が広すぎる上にCV/GATEが1系統しかないのでシステムに組みづらい難点があります。今現在はP4LのRVS(ランダムCV)にアッテネーターとcentrevillageのSQTを使っています。こうなるとフレーズもほぼ運任せになってしまいますが、これもモジュラーシンセならではの醍醐味だと思ってます。
SQTと言えば、ですが2HPシリーズは個人的に大ヒット製品でクロックマスターCLKMをはじめ自分のセットには欠かせないモジュールとなっています。MIDI IN/OUT両方備えているCLKMのお陰で他のグルボやMIDI機器との連携が容易になりましたね。
2HPシリーズ最初のモデルは何だったか失念しましたが、それまでのcentrevillage製品と明確に違うコンセプトを持っていますよね。2HPに抑えつつ単機能特化型で、ここまで種類が増えるとは思っていませんでした。
meloDICERはスケールのキーごとの出現確率をスライダーで設定できるのが面白いですね。
SQTのようなクオンタイザーがあれば、あらゆるCV信号をフレーズ生成に利用できるので、一気にパフォーマンスの自由度が上がりますね。
実際C Quencerの開発には、クオンタイザーに対してLFOやランダムなどのCVをミックスして入力したときの経験が大きく寄与しています。
2HPの最初の製品はAMP ATTだったかと思います。モジュラーレベルとラインレベルの相互変換が出来てヘッドフォンアウトになるモジュールですね。
2HPシリーズはユーティリティ系のモジュールをコンパクトに安く提供することを目的としています。
なので、このシリーズに関しては原価率をなるべく高く維持するために、あえて楽器店に卸していません。
また、なるべくシンプルな機能で高速リリースすることにより、自販売サイトへのインプレッションを増やし、ロングテイルで売上が安定することを目的としています。とはいえ、これだけで生活できるレベルになってきたのはようやく今年に入ってからというところですが・・・。
一通り2HPで欲しいユーティリティ系は作った実感があるので、これからはもう少し大きめのモジュールが増える予定です。
これまでのように高速リリースとはいかないですが、年間で2、3台はリリースしていきたいところですね。
—そう、AMPATTだった。これも使ってますが地味だけど重宝しています。
オシレーターやらフィルターを大きな嵩張る物を選んでしまっているので、ユーティリティ系が2HPのサイズで済むと本当に助かるんですよ。
最新の「Mix」にも注目しています。ジャックの位置を選べるのも「わかってるなぁ」と思いますし、カスケード接続でチャンネル数を増やせるのも良いですね。
あとConduct Machinaですね。
ユーロラックモジュラーではないけど「MIDI同期するライブ専用タイマー」なんて他ではまず有り得ない物ですし、iPhoneアプリやスマホアプリでも似たような物があったとしてもMIDI同期出来るのは強いですね。
個人的には電源がUSB-MicroBよりUSB-Cの方が好みでしたが(miniBとmicroBをよく間違える為)。これも気に入っているんですが赤Verを使っていて後から白(クリーム)が出たじゃないですか。更に買ってしまうかもしれません。
まさにユーティリティ系のモジュールに幅を取られたくないという気持ちから2HPシリーズは作っているところがありますね。
「Mix」は「BiMix」のユニポーラ版が欲しいという声から開発したものですね。それだけだとつまらないので、ソフトクリッピング回路による、簡易的なリミッターのようなものがついてます。
Conduct Machinaはryotaさんのツイートが元ネタでしたねー、実際作ってみると、思ったより大きな需要があることを感じています。
もとはと言えば自分のアイデアではないし、別のメーカーさんが似たようなの作ってもいいと思うんですけど、いまだに見ませんね。
個人的にはもっと改善できるポイントはあると思っているので、どこも続かないようなら新しいバージョン作るのもアリかなと考えることはあります。
例えば、LEDの色を交換できるようにするとか、小さい筐体のバージョンを作るかとかですね、実際やるかどうか決めてるわけではなくて妄想レベルの話ですが。
USBに関しては色々語るべきことがある気はするんですが、よく燃える話題なので差し控えます・・・。
一応、高さを1UピッタリにするにはType-Cだと微妙に入らないという事情はありますが。
—ああ、USB-Cだと収まらないんですね。いつもmicroBの裏表の判別が出来ずにイライラしてましたがw
さてさまざまな製品を開発しているせんとれさんですが、ここに至った経緯や音楽活動の遍歴を教えて頂けますか?
高専生時代、友達が一人もいない暗黒の青春時代を過ごしてたんですが、その時に有り余る時間でいろんな漫画、ライトノベル、音楽などのエンタメにどっぷりつかってました。その時期にAphex Twinのアンビエントワークスvol.1を聴きまして、ものすごい衝撃を受けたことを覚えています。
それで自分もこういう音楽を作ってみたいと思って、バイトで貯めたお金でRoland SC-88Proを手に入れたのが、創作的な意味で音楽にかかわり始めたきっかけだった気がします。それでしばらくは毎日のように88Proでアンビエントテクノっぽいトラックを作ってました。といっても、根性がないのでまともに完成した楽曲は数えるほどしかなかったですが。
大学に入ってからもしばらく作曲は続けてはいたんですが、どこかに発表する目的とかあるわけでもないし、次第に熱は冷めていきました。
そのあとIT系の企業に就職して数年たったぐらいのころにVOLCALOID初音ミクが発表されまして、何となくおもしろそうだと買ってみたわけです。
当時はニコニコ動画がちょうど流行り始めたタイミングで、VOLCALOIDもニコ動上で盛り上がり始めていました。
それで、自分も久々に作曲でも始めようかと考えてFL Studioを導入したんですが、88Proとは音も操作系も全く違うのでなかなか慣れなかったですね。そんなこんなで、ニコ動に初音ミクを使った曲をいくつかあげていくうちに、ある日「箱根P」というタグが自分の動画につけられまして、それが自分のボカロP名になりましたね。
昔はボカロPのコミュニティも小さかったので、割とイベントの後とかに合同オフ会のようなことも良く行われてました。
そこで知り合った人の一部とは今でも付き合いがあったりしますね、実際の青春時代がろくでもなかったので、遅れてきた第二の青春みたいな感じでしょうか。
そのあと、自身の楽曲に使えるかもしれないと思ってエレキギターを買ってみたんですが、結局ペダルエフェクターの沼の方にハマってしまい、ギターは全くうまくならずに変な音のするエフェクターばかりが自宅に溢れるという・・・。
ただそれがきっかけでエフェクターの自作などにも手を出すようになって、それが電子回路の設計の初めだったと思います。
時がたってボーカロイドもメジャーになってくると、初期からいたマニアックな人たちは次第にシーンから離れていきました。
自分も曲を上げても反応が少なくなっていることを感じていたし、何となく行き詰まりを感じるようなり、そんなある日、ボカロPのとある知り合いの家でTR-606を触らせてもらって、その直感的な入力に衝撃を受けました。
それで、自身も中古楽器屋さんでTR-606を購入して、あまつさえ改造をするようになっていくわけです。それがハードウェアのシンセサイザーに興味を持ったきっかけでしたね。
もうすでにだいぶ長くなってきたのでざっと端折ると、そのあと同じ中古楽器屋さんきっかけでモジュラーシンセサイザーも始めるようになって、今に至るわけです。
–高専生だったんですか。高専卒の人達って独特の空気を持っていますよね。
高専卒の人達って理系思考かつユーモアのセンスをしっかり持っている印象があります、暗黒の青春時代と言えども好きな事を見つけられてそこに没頭できるのは幸せな事だと思いますよ。
黎明期にボカロPをやっていたというのも珍しいですね
ボーカロイドやニコニコ動画の文化って、今現在のエンタテイメントの礎になっているような気がします、自分自身は後から文献を辿っていただけで、どちらも当時の熱狂を知らないんですが。
電子楽器の入口がTR-606の操作性に衝撃を受けて購入に至ったというのも面白いエピソードですね、一流ミュージシャンではまず有り得ないですよ(笑)。
そこから自身のブランド立ち上げに至るまでのお話を更に伺いたいと思います。
初めてちゃんとモジュールっぽいものを作ったのは、初代C Quencerですね、調べたら2016年に出しているのでもう8年以上たってますね。たしかこの時には会社はすでに辞めてたのかな?
実は、これはもともとモジュールを作ろうと思っていたわけではないんですよ。
M3という同人音楽イベントにCDを出すにあたり、何かしらの仕掛けが欲しいなと思って考えたのが、CDジャケットを基板で作ってしまうというアイデアでした。
CDケースのサイズってだいたい125x125mmぐらいなんですが、これって実はほぼ26HPのモジュールのパネルと同じぐらいのサイズです。
そしたら、せっかく基板でつくるのに動かないのはもったいないということで、頑張って動くものにしようと。
そんなこんなでかなり突貫で基板を作り、イベントではジャケット基板をシーケンサーモジュールとして組み立てるための部品一式も、CDと一緒に販売したわけです。
多分、楽曲そのものを作るより、このモジュール開発するほうがはるかに時間かかってますねw
この時ブランド名を新しく考えるの面倒で、ネット上の通名として使っていたcentrevillageをそのままブランド名にしてしまいました、ロゴマークもイラストレータででっちあげたんですが、これももっといつか良いものに変えようと思いつつそのままになっていますw
そのあと一年以上かけて後継機のC Quencer DLXを開発して、それが楽器店にちゃんと卸した最初のモジュールになりました。
その後もフリーランスのIT技術者としてお仕事しつつ、副業でモジュールの開発を続けていました。
そしたらコロナでいつの間にやら世の中は大パニックになっていて、気付いたら来る仕事も減っていました。
そこで頑張って営業すればいくらでも仕事はあったんだと思うんですが、ITの仕事にだいぶ飽きていたのもあって、そのままにしていたら一年がたち、貯金が底をつき始めました。
社員時代に頑張って貯めたお金がただただ減っていくのは本当に恐怖でした・・・。
このままじゃまずいので、こうなったら個人メーカーとして生活することを本当に目指すしかないなと。
その時点でもいくつかのモジュールをリリースしてはいましたが、まったく生活できるようなレベルの売り上げではなかったので、まずシンプルでいいからたくさん作るということを方針として決めました。
マーケティングなどもあまり得意ではないので、新製品のリリースがすなわち広告と考えて、とにかく作ることだけに注力しました。
それで始めたのが2HPのシリーズですね、この時に新しい販売チャネルとして公式ストアも開設しました。
そうして今、公式ストア開設から約3年経って、何とかギリギリではありますが生活できるようになった感じです。
—初代C Quencerは自分も持っていました。元々はCDのジャケットだったというのは聞いていましたが、「基板でつくるのに動かないのはもったいない」と動く物にしてしまおうとするのは、やはり根っからのエンジニアさんなんだなぁと思いますねw
しかし既に専業のメーカーとして成り立っているというのは初めて聞いたかもしれません、今までIT技術者として生計を立てていて副業としてシンセを作っているという思い込みがありました。
この道を選択したせんとれさんからして、将来を見据えてどんな製品を作っていきたいでしょうか?
モジュラーシンセに限らずこの先の展望があれば教えて下さい。
この3年間でシーケンサーやユーティリティ系のモジュールはたくさん作ったので、そろそろ音が出るモジュールとか作りたいですねw
最近アナログ回路にもまた興味が出だしたので、アナログ系のモジュールは増えるかもしれません。
あとTrigger HaCkerについてはmk2を開発中なので、そのうち出せるのではないかと思います。
モジュラー以外では、来年からはグルボのプロジェクトを開始しようと思っています。
こっちはだいぶ長期のプロジェクトになる予定なんですが、その間に製品を出さないわけにはいかないので、なるべく短いスパンで成果物は出していきたいですね。
モジュラーシンセでライブなどもやってきて、モジュラーだけで完結させることの限界も見えてきたので、グルボとモジュラーを統合した新しいシステムが作れたら面白いかなと思っています。
—それは楽しみです、「そう言われれば」そうなんですが、せんとれさんはモジュラーだけでなくグルボにも理解が広いんですよね。
グルボとモジュラーは設計レベルでも似ているようで違う印象ですが、この相違点や共通点をどう観ていますか?
グルボには直感的な入力とパラメータの保存・読み出しによる再現性の高さというメリットがあります。
一方でモジュラーには再現性こそ低いものの、無限の拡張性とルーティングの自由度があり、プレイヤーの発想次第で何でもできる魅力があります。
自分の場合は音作りというより、シーケンサー部分に興味があるわけですが、Elektronのようなのよくできたシーケンサーで作れるフレーズと、モジュラーの自由なルーティングによって生み出せるフレーズはかなり異なります、グルボ的なシーケンサーの方がトラック全体のリズムの統一感を細かく制御できる分、完成度の高い音楽を作りやすいですが、一度作ったシーケンスを崩して展開を作ることが難しいです。
モジュラー的な手法でシーケンスを作る場合は、シーケンスのもととなるCVに対していろいろモジュレーションをかけることが出来て、最終的にクオンタイザーに通せば音楽的になるので、非常に即興向きです。
今自分が興味があるのは、この両者のよいところを取り入れたシーケンサーが作れないかということです。
つまり、トラック全体の統一感も持たせられるし、同時に即興で無限にフレーズを崩していけるようなシーケンサーです。
例えば、比較的新しい製品のCosmos QuencerではCV/GATEの外部入力があったりしますが、あれは外部シーケンサーとフレーズ的な同期を意図しています。
モジュラーでは全てのシーケンスがバラバラになりがちですが、シーケンス同士が干渉することによって一つの統一感が生まれるのではないかという考えです。
これはモジュラーにグルボのシーケンスのような統一感を与える試みですが、逆方向のグルボにモジュラーの即興性を与える試みもやりたいと思っています。
もしかすると、それは今考えている「理想のグルボ」というプロジェクトで達成することになるかもしれません。
—-「理想のグルボ」前々から聞いていましたが、今回伺ったお話を踏まえると壮大でロマンある計画だと思います、これについて初見の方にも伝わるよう説明頂けますかこれについて初見の方にも伝わるよう説明頂けますか?
理想のグルボでは以下を達成することを目標としています:
- ハードウェア的な拡張性(操作系のカスタマイズ性)
- ソフトウェア的な拡張性(プラグイン的な仕組等)
- オープンソース&オープンハードウェアでありDIYによる改造が容易であること
- 他のハード(モジュラーや既存グルボ)との高い相互運用性
理想のグルボでは、モジュラーのように無限の拡張性を持つプラットフォームを目指しています。
もう少し具体的に言うと、グルボのコントロール部分や音源部分などがメイン部分とは別のモジュールとなっているので、ユーザーは自分が理想とする構成を選択することができます。これはハードウェア的な拡張性ですね。
またソフトウェア的な拡張性で言うと、まずオープンソースであるためユーザーは好きな機能をグルボに実装することができます。
また、もっと簡単なプラグイン的な仕組みも用意したいと思っています。
KORGの一部の製品ではlogue-sdkによるプラグイン開発が可能となっていますが、理想のグルボでは音源部の拡張のみならず、シーケンサー部もプラグインで拡張できる仕組みを考えています。
オープンソース&オープンハードウェアであることによって、誰でもプロジェクトに参加できますし、独自の改造を施すこともできます。
相互運用性の部分では、CV入出力によるモジュラーとの連携、MIDIによる通信が可能で、また理想のグルボ独自のプロトコルでの通信も可能とする予定です。
これはMIDI2.0的な仕組みで、接続先の機器と相互に通信し、理想のグルボ本体との深いレベルでの統合を可能とするものです。
これにより、理想のグルボプロトコルに対応した機器を拡張モジュールのように扱えるようになります。
具体的なプロトコルはこれから考えるのですが、MIDI2.0+α的なものになると思います。
ただし、MIDI2.0はもう仕様が決まっているため、あくまで「的」なものであって基本は独自のプロトコルになる想定です。
おそらく始めはモジュラーのケースにマウントできるモジュールの形でリリースすることになると思うので、ある意味モジュラー2.0的なサムシングになるかもしれません。
色々落ち着いたらdiscord等で開発コミュニティを作ろうと思ってますので、ご興味ある方はぜひ参加お願いします!
https://discord.com/invite/J9VJrawn
—よく二水@早稲田や僕らの酒の席でも「この機種にこんな機能あったらなぁ」なんて与太話を繰り広げていますが、それよりももっと深いレベルの根幹的な所から考えているんですね。
かつ色んな人達に広まるような仕組みを取り入れていて、また初めはユーロラックのフォーマットを流用するのは現実的な案ですね。
しかし気になるのは「ユーロラック版グルボ?それはDFAMやSUBHARMONICONと然程変わらず、それらほど個性は無いんじゃないだろうか?」という疑問です。もちろんトラック数や音源方式、通信方式など多岐に渡ってお考えなのでしょうが、そこを踏まえてもまだパイオニアとしての新しい魅力を感じる事が出来ません。
また「ハードウェア的な拡張性」はカスタマイズをどのようにして行うとお考えなのでしょうか?
自分のような素人にはプラットフォームとしてのユーロラックに対してアドバンテージがあるとは思いにくいです。
まず、ユーロラックフォーマット自体に拘っているわけではないですね。
グルボを作るうえで地味に大変なのが電源とケースの作成なので、そこが既成のものが使えると楽なので、使えるものは使おう、ぐらいの気持ちです。
DFAM等をグルボとして認めるかどうかは諸説ありそうですがw
理想のグルボの拡張性というのは、単にCV/GATEやMIDIを出力できる、というレベルよりもっと深いものを考えています。
今のモジュラーシンセにおける大きな制限として感じているのが、音を変えるためには基本的にはパッチをし直すしかないという部分です。
例えば30分のライブをやるとしたときに、複数の曲があるような構造で演奏するのはなかなか難しいです。
それをやるにはリアルタイムにパッチングをし直す必要がありますが、どうしても時間がかかるのですぐに切り替えられるわけではありません。
ゼロパッチから始めるとかはそれはそれですごいパフォーマンスなんですが、それは目指すものがそもそも違うと思うので、ひとまず置いておいてw
ともかく、「組み上げてしまったパッチ」という制限は、ライブ中のパフォーマンスにもある種の制約を与えることになってしまいます。
現状バランスの良い解決策としては、なにかグルボ的な機材とモジュラーを組み合わせて、曲の土台の構造をグルボ側に任せてモジュラーは「ウワモノ」的な使い方にするというところだと思います。
しかしそうせざるを得ないのは、モジュラーとグルボの統合というのが現状ではまだまだ弱いからだと思っています。
例えば、グルボからモジュラーをコントロールしようとしたとき、現状ではMIDI to CV/GATEの変換ができるモジュールを間に挟んで制御することになりがちですが、チャネル数が限られますし、基本的に一方的な通信なので、グルボ自身が持つシーケンサーの特性にシステムが大きく支配されることになります。
そこで、モジュレーションなどのコントロール信号をいったんすべてデジタル化してしまいます。
シーケンサーやLFOのモジュールはアナログ信号の代わりにデジタル信号を出力して、その信号を理想のグルボのメインモジュールが音源モジュールにマッピングします。
これによってコントロール系の信号はすべてデジタルでバーチャルパッチングできるので、一瞬でルーティングを切り替えられますし、モジュレーション量のコントロールなども自由自在にできます。」
そして、こういうシステムでないとできないライブ表現というのがあると思っているので、そういう表現が見られたり自分で演奏表現出来たら面白いかなと思っています。
こういうことを既存のMIDIプロトコルでやろうとしても限界があるので、独自の通信プロトコルが必要になると思っています。
また、その通信プロトコルに対応したシーケンサーや音源モジュールも必要になってきます。
もう一つ重要なのはオープンソースであることです。
通信プロトコルの仕様もオープンにしてだれでも対応する機材を作れるようにしますし、グルボ本体のソースコードもオープンにしますので、やる気と技術のある人はだれでもそれぞれが理想とするシステムを作れるようになります。
将来的には、それが新しいライブシステムのフォーマットとして普及したら面白いですね。
そんなわけでなかなかやることが多いのですが、ライフラークとして地道に続けられればいいかなと思っています。
—モジュラーシンセで例えて貰えると凄く分かり易いです。
確かにライブ本番中にパッチングを変えるような事はほぼしないし、
その制約から逃れられずにもどかしい思いをしています。結局は自分も「モジュラーシンセで何でもやろう」という考えを諦めてグルボやスタンドアロンデバイスに頼っています。パッチングをパターンのように時間軸で変化させられる、というのは夢のようなシステムですね。
それでは最後となりますが、せんとれさんの公式プロフィールをお願いします。
公式プロフィール・・・。難しいですね。
いろいろなことをやっていますが、とりあえず今はモジュラーシンセメーカーとしての活動がメインです。
たまにですがモジュラーシンセやグルボを使ってライブをやることもあります。
こういう機材があったらいいなみたいな相談や、ライブのオファーなども受けておりますので、気軽にご連絡ください。
今回はインタビューをご依頼いただきありがとうございました!
マシンライブおよびモジュラーシンセの文化に少しでも貢献できたら幸いです。
—ありがとうございました。今後のご活躍を期待しています。
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