モジュラーシンセやマシンライブ分野で活躍する人々に焦点を絞りインタビューをしていく連載も今回で3人目。
大阪を中心に関西圏で活動するPlugmanをゲストに迎えました。
—まずは音楽活動の略歴を聞かせてください。
98年頃からシンセサイザーを手に入れて、01年位にコピーバンドのキーボードやミクスチャー系のバンドに入ってシンセ弾いたり、ソロでオリジナルの打ち込み楽曲を作ったりしていました。
2004年頃から女性のギターボーカルとシンセのEelectroPopのユニット“MOLMO PLUG”モルモプラグという名前で、
地元岡山のPEPPERLANDと言うLiveハウスを中心にライブ活動していました。6枚のEPと2枚のアルバムを作りました。
その傍ら地元のCM音楽作成やご当地アイドルのサウンドプロデュースをさせて貰ったりしながら、
2017年頃からユーロラックモジュラーを用いてIDM,Breakbeatsを取り入れたスタイルのライブ活動を始めました。
—只者じゃないとは思っていましたが、やはりかなりのキャリアをお持ちなんですね。
現在のモジュラーシステムもかなり巨大ですが、こちらのシステムを写真と共にざっくり紹介して貰えますか?
ここ数年は、モジュラーシンセを使ったライブ活動が中心になっているので、自分が飽きずに長く使えるものをセレクトしています。
手元で直感的にコントロールしやすい形をベースに、我儘を追求したシステムになっています。
今は168HP×4段の自作モジュラーケースを使用して、Nord micro modular、Nord drum2、ラックエフェクトにtc electronic FireworxとLexicon MX300、MIDI ControllerにNovation ZeRO SL MkIIを組み合わせたシステムになります。
モジュラーケース内は最下段からシーケンサーやjoystickやフェーダーでコントロールする物を手前に、真ん中2段はLFO類のモジュレーション、サンプラー、シンセで固め、
最上段は音声信号を纏めてエフェクト類へ繋ぐ流れで分けています。
XOR ElectronicsのNerdseqがメインのシーケンサーでシンセ、1010music bitboxのサンプラーやMIDI関連を鳴らして、リズムはWMD METRON、その他CVシーケンスはMalekko voltage blockやPolyend presetを使用しています。CVソースを手前のスイッチやボタン、フェーダーでフレーズや音色、エフェクトを切替えたりしています。
またBefaco VCMCを使いCVからMIDIに変換しNorddrum2を鳴らしたりNerdseqのシーケンサーをMIDIで制御しています。
ZeRO SL MkIIはMIDIポートが3つあるので、ラックのエフェクト切替やmicro modularの制御、メインミキサーであるbitboxコントロールを任せています。ざっくりですが、こんな感じす。
—まさかユーロラックのみならずラックエフェクターまでとは恐れ入りました(笑)
しかしご自身の納得行くまでトコトンこだわれるのもモジュラーシンセの強みであるし強烈なロマンを感じます。
よく一緒に活動されているpolyshaft氏もかなり大型のケースを使っているようだし、
関西の面々は大艦巨砲主義というか大型システムを組みがちな、そういう価値観をお持ちなんでしょうか?
自分の観測範囲の関東勢(?)は移動手段に車を持っておらず、
大きくても104HPx2段でシステムを組んでいる人がほとんどで、
自分自身も104×4段ケースを使い切れずに現在は84×4段で抑えている所もあります。
またER-301やNerdSEQなどの多機能モジュールも敬遠する方向になるように思えますね。
polyさんや阪口さんとは、自分がモジュラー始めた最初期から仲良くさせて頂いてます。
出してる音も違うし、大型傾向になるのは本当にたまたまで、数年前に同じ時期によく一緒にライブしていたからその印象だと思います。過去の会話の中から勝手に憶測で言う共通点?は、音以外のネガは考えず、持ち運ぶ事は二の次(笑)で、納得行くまでユーロラックに関わらず自分のサウンドやモジュラーセットに合う物を追求してトコトン取入れて、試行錯誤しながら、”いいっすね!最高っすね!”、、さてライブで運ぶのどうするかな?(笑)、まぁ大丈夫でしょって感じはあるような、、、。
まぁ大きさに関しては、それぞれ個人がやりたい事の過程であって、音の結果とはまた違うし、同じ傾向ばかりだと飽きるし、
それぞれのスタイルで納得してたら良いと思います。
あと自分は元々はバンドでキーボードをしていた所もあり、76鍵ともう一台、あと同期のDAWシステムって始まりなので、それに比べると楽かなって感じはあります。(笑) 今の所運べてますね。
ER-301やNerdseqみたいな、
ある意味オールインワンになり過ぎるモジュールは一つで色々出来る反面、1つの面白さが無くなるのかも知れませんね。階層もありますし、使いこなすまで時間が掛かったりしますね。
自分の場合は、ライブするのにグルーヴボックスで何度も挫折した過去があるので、自分に合うシーケンサーや音源を自分のペースで覚えたり組み合わせたり、機能を拡張したり切り離したりする方が簡単だったのが大きいです。ユーロラックはそう言った我儘にセットをカスタム出来るのが1番の利点と感じています。また変わらない所もあるので老舗の漬ダレみたいな面もあるシステムです。
—なるほど。元々キーボーディストなら重い機材を運ぶ事も慣れてらっしゃいますね。
しかし「持ち運ぶ事は二の次」というのは相当に割り切った哲学をお持ちなようで(笑)。
自分等は買いたい機材を選ぶ時でさえ「カバンに入るかな?重さはどれくらい?」なんて所を最優先して選びますんで。
Plugmanさんの音楽傾向としてドラムマシン(やグルボ)よりもブレイクビーツを多用した傾向を感じられます。
グルボ出身の僕らには案外馴染みのない手法ですがサンプラーを駆使したリズム組みの特徴、
元となるサンプルの選定など醍醐味を教えて貰えますか?
歳取って体力落ちたり、より良い物が出るまでは、このスタイルかなぁ。(笑)
リズムの構成としては、メインのキックはMake Noise STO+LxD下段+Maths+ Mannequins Three SistersのHPFを使っていてます。その他のシンセ系のリズム音はNorddrum2。ブレイク系のサンプラーはErica Synths SampleDrum、bitbox2、Nerdseqのサンプラーの3系統になります。サンプルネタはフリーのブレイクスや過去にドラムマシンで作ったライブラリをLogicで編集して入れてます。サンプラーの使い分けは2パターンで、きっちりリバースやピッチなどの仕掛けを作ったブレイクを使う時はbitbox2、Nerdseq。SampleDrumはvoltageblockやPolyend Presetでブレイクの波形をCVで指定してステップをリアルタイムに自由に組替えて使う用途になります。定番ネタに変わったブレイクを混ぜて使うのが好きですね。
なのでリズムパターンも敢えて隙間を作ったり、手が入り過ぎてない未完成なパターンや確率も沢山仕込んで、その時のライブ感でスイッチやフェーダーでパターンのバランスを作りながら完成させるスタイルになっています。さらにリズム音をエフェクトなどで加工しながらバリエーションを作り、自分が飽きない様にプレイしています。せっかちなので次のパターンとか待てないんです。(笑)
上物もきっちり鳴るところと、自由度があるフレーズをNerdseqのシーケンスを弄ったり、
モジュレーションソースを使い分けてミックスさせて行く形です。
—やはり一つだけでなく何種類も音源を使っていくものなんですね。
特にサンプラーに3種類も使っているのが凄い。
それでいてライブ本番でも何かしら手を加えられるように余白を残しておくというのも魅力的です。
仕込みの段階で完璧に作り上げちゃうと本番で融通が効かなくなりますからね。
あらかじめ仕込んでおく音とライブ本番で即興で加える音、おおよその比率は決まっていすか?
この記事を読んだ人がリズムメイクで参考にし易いような具体例も教えて頂けると有り難いです。
リズムの音源で言うとシンセドラム系のNorddrum2とサンプラー、メインキックのSTOの3種類になります。個々の音色の完成度はその時の100%で作り、ライブ中で変化を与えて120%を目指すイメージですね。
弄りすぎて70%になる瞬間も(汗)
Norddrum2は、
いつも使う15個のオリジナルのキットプリセットを作ってそれをPolyend Preset→VCMCで MIDIプログラムチェンジに変更してキット自体がリズムパターンとは別に音色が変わります。
切替わるタイミングはNerdseqのユーグリッドトラックを使いPresetの進み具合をコントロールします。
作る音色傾向は固有のドラムマシン音を目指すと言うよりは、シンセドラムっぽいビープ音で、ディケイはなるべく短くキット毎にキック、スネア、ハット、ノイズのポジションで鳴らす4パート作ってます。
これもライブする度に飽きた音からエディットしてます。音色パラメータもパート毎に一つ選んでVCMCからMIDI CCでディケイや歪み具合の微調整をライブ中によっては変えます。は
Norddrum2はエッジもありオススメです。
STOのキックに関しては、Shapeで倍音を増やしてブーミーにしたり、Mathsの掛け具合でピッチ感やLxDでディケイを作れるので結構バリエーションが作れます。基本は腰が少し高めな音色が好きです。最終段のThree SistersのHPFでローをカットしてアイソレータ的に使うのが好きですね。
サンプラーの音色は、リアルタイムに動かすブレイクはSampleDrumの2パートになるですが、ワンショットで並べてる物と、1小節を16にスライスしたブレイクの帯を32個を仕込んでいます。ワンショットは定番のブレイクを、帯の方は、はちゃめちゃなブレイクや声ネタ、PCMドラムマシンで作ったヨレた変なやつを仕込んでます。これらをVoltageBlockのStepJumpを使い2パートのスライスを切替えたり、Presetで帯全体を切替えたりします。SampleDrumの内蔵エフェクトをWMDの4ttenを使いハイパスしたりリバースさせます。
これらの音色を用所毎にステムで纏めて、
コンプやdelayなどをER-301等で作り上げ、
どの段階から最上段のエフェクトやNord micromodularのvocoderやラックエフェクトに描けるのか割り振っています。またよく使うユニゾンされたベースラインは、リズムの低域にぶつかるのでER-301でキックでダッキングとM\S処理で定位させます。
リズムのシーケンスに関しては、
上記の音に関してはMetronで組んでいます。
割合は意図した60〜70%に抑えてます。
Norddrum2はブレイクや上物を入れても邪魔にならない様なパターンだけれども、
単体でもグルーヴが出て、且つ確率を利用してなるべく同じパターンでも変化がつく様に微調整しています。例えばキックがいい感じにキープしているけど、次来る時にスカされたり、デュルっとバリエーションが出たりします。
Metronは常にFXモードにしてMUTE操作やBrustもできる様にもしています。たまに奇数Stepで外部からReset信号を入れたりして変拍子を使う事もあります。
STOキックやSampleDrumの
トリガーシーケンスは各2パターン同時に作っていて、Noise Engineering Confundo Funkitusに入れて、スライダーでその2パターンの出現率やBurnボタンで連打を入れたり、MUTE Switchで ブレイクを抜差しします。
これらの調整で目指す100%になり、
あとは出てくる音の閃きで120%を目指して行く形です。(笑)
—かなり複雑に作り込んでいますね。
ここまで聞いていて心配になったのですが、
それだけ複雑なシステムで機材トラブルに遭ったりはしないんでしょうか?
またトラブル時のフォローはどうされてますか?
このシステムを一気に構築すると、
恐らくトラブルだらけになると思います。
自分は数年かけてセクション毎に秘伝の漬けダレ?的に地道に拡張をしてきたので、
完全に止まったりしたのは一回位ですね。
会場によっては電源タップを共有したりして、
電圧が下がって挙動がおかしくなる事があるので、そこはリハで出来る限り最善を尽くして行きます。
新しく入替えた物に関しては、
一通り触ってマニュアルを全部ざっと読んだりして、マニュアルのスクショを保存したり、
困った時用に頭の中でインデックスを作っておきます。そこから色々負荷を掛けた時の挙動や、
癖や演奏方法を把握しています。
なので今入ってるモジュールは、
個人的に信頼度が高いです。
それでも細かな予期せぬトラブルもあるんですが、起きた場合は音が全て鳴らなくならない様に、自分のモジュラーケースは段やセクション、リズムと上物みたいにで電源を分けていて、どこか止まっても、おかしい所の電源オフれば今の所は対処出来てます。
完全にダメだったら、
カラオケの十八番を歌えるようにしてます(笑)
あと音のバランスなどは、
定期的にリハスタ行ったりして、バランス感を持っていてある程度、
何処で鳴らしても崩れない様に確認していますね。
—経験則に裏打ちされた対策が完璧ですね。
やはり自分たちもカラオケに通うべきでしょうかね(笑)
しかし電源問題による電圧低下はよく聞く話なので、
これを読む皆さんにも注意して欲しいところです。
諸々の機材のお話ありがとうございます。
次は大阪を中心にした関西圏の電子音楽シーンの動向を伺いたいと思います。
共演されている面々を見ると錚々たる面子が揃っているように思えますが、
初心者やポっと出の人が入り込めるような場所はありますか?
また電子楽器をやらずとも演奏を聴いて楽しめそうな所を教えて下さい。
機材の話Nerd感?もあり早口で、
長かったですね。(笑)
自分も岡山から関西に来てポっと出の人なんで、シーンを語れるほど知らないのですが、
自分が実際にプレイして遊びに行った所で、
オススメの3つ挙げさせて頂きます。
1つ目は南堀江、桜川にあるenvironment 0g 。
https://nuthings.wordpress.com/
プリミティブで実験的な感性や、ブッ飛んだセンスの方々による電子音楽やDJのイベントが楽しめるハコで、
雰囲気もリラックス出来て、凄く刺激も貰える場所です。
2つ目は、扇町para-dice。https://para-dice.net/
バンド時代にお世話になったライブハウスですが、電子音楽を取り入れた人達も沢山出ています。バンドマンな感じと電子音楽な空気感が混じっているイベントもあり、店長もモジュラーシンセでプレイしていたりで、アットホームな雰囲気で入りやすいと思います。
3つ目は、Kadget 関西電子音楽コミュニティ。
https://x.com/Kadget2022
Ryotaさんがされていたイベントに影響を受けた所から関西でスタートしたコミュニティと聞いてます。
定期的に参加者募集していて、電子楽器を持ち込んで鳴らせたり、セッションしたり、情報交換や、気軽に聴きに行く事も出来るのでオススメです。
—どこも楽しそうですが最後のKadgetには親近感を覚えます。
電子楽器人口を増やすにはこういうライブレス・パーティは欠かせないと思いますしね。
さて少しネガティブな話になりますが、
先ほど「グルーヴボックスで何度も挫折した」と仰られていましたが、
Plugmanさんの主観でグルーブボックスの苦手だった部分、
対してモジュラーシンセの利点を教えて頂けますか?
グルーブボックスは学習コストが高い分、向いてない方が資金と時間を間違った方向に費やしてしまうのは残念ですからね。
どちらも自分にしっくり来るのが1番ですね。
自分がユーロラックモジュラーにしっくり来た事は、シーケンサーや音源方式やコントローラーと切り分けて我儘にカスタムできたり、
また他の単体機とも繋げられる拡張性に加えて、自分のペースで一つ一つ学べる事が1番大きかったです。使い慣れてくると外観は複雑そうに見えても、実は自分的には物凄く単純に繋がっています。
自分はグルーブボックスはオールインワン的に
どうしても捉えてしまい、
ワークフローを覚えるところで、
ここはアレと変えたいなっていうストレスを感じました。そこが自分の苦手意識に繋がっているのかと思います。
どちらもメリットデメリットはあるので、
それぞれ良いところだけを取り入れたりもしてきました。
言うまでもなく、他人の環境や能力や結果と比べずに、自分にしっくり来そうな物を触って学習しながら、楽しい!最高〜!って、それぞれの環境で音を出して行くのが良いと思います。
—やはり学習コストなんですね。
メーカーや機種によって操作方法が違っていたりで覚えるのに苦労します。
初心者ならずともPlugmanさんのような緻密で複雑な音楽をする人でもそう思ってしまうのが面白くもあります。
最後になりますが、
公式なプロフィールと直近のライブ出演情報を教えて下さい。
あと例えば単体のシンセ一つを徹底的に使いこなせる様になると、自分の中で音作りの基準が出来るので、次の学習コストを下げていけると思います。それでも設計思想や作家性が合わなかったりするものはあるので面白いところですね。インタビューありがとうございました!!!
直近のライブ出演情報
・11月7日(木) 大阪HOKAGE 武田充貴&Plugman
・11月22日(金)岡山PEPPERLAND
・12月1日(日)IBALAB@HIROBA
・12月26日(木)岡山PEPPERLAND
・1月13日(月)岡山IMAGE
・2月23日(日)TBA
Plugman
2004年からEelectroPopユニット
“MOLMO PLUG”として岡山PEPPERLANDを中心に活動。2枚のアルバムを発表。
傍らCM音楽やアイドルのサウンドプロデュースを行う。
2017年よりユーロラックモジュラーを用いてIDM,Breakbeatsを取り入れた即興スタイルでライブ活動を始める。
2021年1月NewMasterPieceより
1st EP “Power Rangers EP”を発表。
TFoM2019、KFoM、DOMMUNE、PATCHING FOR LIFEに出演し、
モジュラーシンセのレクチャーやベータテスタも行う。現在精力的にライブ活動と新音源制作中。