以前こちらで紹介したモジュラーシンセ、興味を持たれた方も値段の高さにビックリしたかもしれません。
或いは、何から選んで良いのか見当もつかない方もいらっしゃるかと思います。
しかしメーカー側も単体で一通りの音が出せる「セミ・モジュラーシンセ」というものを発売しています。
これは一つの筐体でシンセサイザーにまつわる全ての部品を入れた機材でして、
物によってはMIDIやシーケンサーやエフェクターも内蔵しているものもあります。
価格帯的にも単体グルーブボックスと同じくらいで入手しやすく、
グルーブボックスとコンビを組ませても抜群の相性です。
前記事「マシンライブのはじめかた」で紹介した通り、
2台目のマシンとしてこのセミモジュラーを勧めています。
◯グルボとセミモジュラー、どう違う?
数種類のドラムとシンセを備えていて一台で一通りのトラックが作れるグルボ/ドラムマシンに対して、
セミモジュラーはざっくり言って一台で一つの音しか出ません。コスパ超悪いです。
しかしほとんどがアナログシンセなので出音がソフトシンセとは対極的で荒々しい。
シーケンスが直感操作。画面が無いので操作に迷う事が少ない。
他のセミモジュラーやモジュールとパッチングが出来る。大抵クラシカルなルックス。
そういうメリットがあって自分もセミモジュラーシンセが大好きです。
「モジュラーシンセ」と言いつつも大抵はセミモジュラー中心のセットで臨んでいます。
◯セミモジュラーの利点
・(グルボに比べて)フィジカルな操作感。
・(グルボに比べて)音色変調がダイレクトに出来て気持ち良い。
・(モジュラーに比べて)価格が安い。
・(モジュラーに比べて)構成で悩まなくていい。
・メーカーごとの個性が際立っている為(際立ち過ぎ)、ある意味選びやすい。
・物によってはユーロラック対応しているので、筐体からバラしてユーロ箱にも入る。
・それなりの値段で売れる為に「向いてねぇや」と思っても(モジュラーよりは)痛くない。
◯セミモジュラー導入に必要な知識
・信号の種類
パッチケーブルを通る信号は-5Vから+5Vといった電気です。
信号というより単純な電気なのです。
説明は割愛しますがCV/GATE信号と呼び、MIDIは基本的に付いてません。
同期にはMIDIクロックではなく(アナログ)クロックを使います。
VolcaシリーズなどにあるSYNC信号と同じものです。
・入力と出力は別
これはMIDIと同じで基本的にOUTからINへの一方通行です。
・ユーロラック対応か否か
後述するMOOGのM32シリーズのように
筐体を分解すればユーロラックモジュラーとして使える物があり、
それを元に機能拡張するモジュールを買い足して強化できます。
◯セミモジュラーシンセおすすめ機種
2万円チョイで買える機種から100万円近くする超高級機まで選り取り見取りですが、
国内で入手できる比較的安い物をピックアップしていきます。
◯MakeNoise
・0-COAST

前記事でも紹介したユーロラック復興の立役者。
デザインが独特ですが触れば馴染みやすい設計をしています。
シーケンサーは備えていないけどMIDIに対応するので、
MIDI出力対応のグルボでも鳴らせる。
ユーロラックには一応は非対応としておきます。
パネルの寸法は合うけど電源に改造が必要です。
・STREGA

音階や発音を制御しない「ドローン・シンセ/ノイズ・シンセ」の一種。
フィルターで音色を、ディレイで音の遅延を制御する。
◯MOOG
シンセサイザーの名門MOOGからも各種リリースされています。
Mother32を除いて非常に個性的なラインナップで癖が強すぎる所もあり。
特にシーケンサーが実験的と言える物が多く、
Mother32:オーソドックスなアナログモノシンセ。
他機種よりも個性が弱いが手堅い選択かも。
クラシカルなシーケンサーやMIDI IN端子を備えDAWからの演奏にも適している。

DFAM:ドラムシンセ。
ドラムやパーカッションなどの短い音に特化したモデル。
ツマミで8ステップのベロシティを制御するシーケンサーで、ステップ毎に強弱をつけるフレーズが個性的。
ただしMIDIは備えておらず、他機種との同期にはクロック信号が必要。

SUBHARMONICON:変態アンビエントマシン(笑)。
4ステップ(!)シーケンサーを二つ備えていて、6つのオシレーターで分厚い音を出す。

Labyrinth:「シフトレジスタ」と呼ばれる自動生成シーケンサーを使ったモデル。
音階の設定は出来ずシンセにお任せ。これ最近買いました。めちゃ楽しいです。

代表的なMakeNoiseとMOOGの2社を挙げましたが、このどちらかを選ぶのであれば
軽くコンパクト=MakeNoise、ユーロラック化を前提にする=MOOG、といったところでしょう。
MakeNoiseもユーロラック化は出来なくはないけど、メーカー側でそういう仕様にしてない為に
結構な改造が必要です。
◯セミモジュラーをユーロラック化する
上記のMOOG製品では筐体から本体を外すとユーロラックモジュールとして利用できます。
横幅は60HPとユーロラックとしてはかなり大型ですが、
それを中心に構成する事で無理のないシステムを作ることができます。
例えば、
・DFAMにMIDI to Clockを加えてMIDI対応にする。

・SubHarmoniconに外部クオンタイザーを加える。

などなど、イチからフルモジュラーを始めるよりもシンプルで安上がりです。
最近の自分の構成例だと(上の例も過去に自分がやったものですが)、
84×2段のケースにMOOG Labyrinthを中心にテルミンモジュールを二つ、
Labyrinth内部のウェーブホルダーに割り当てアンテナに手を近づけると音が歪むようにしてます。
もう一つはエフェクト(ここではディレイのMimeophon)の各パラメータに割り当てています。

テルミンから出るCV信号を制御出来るようアッテネーター、インバーター、マルチプルを備えてます。
クロックに4msのQCDを入れて、二つあるLabyrinthのクロック入力を自在に操れるように。
他にはキック/ハット/金物などの音源を入れランダムゲートで鳴るようにしてます。

こんな風に「モジュラー初心者が最初に買うべきもの」から
「熟練者でも存分に楽しめるようなシステム」まで成長させられるのもセミモジュラーの利点です。
◯参考記事
このあたりの情報は自分の個人ブログの方で詳しく解説しています。
チト情報が古いですけどね。
セミモジュラー天国へのいざない【1】
セミモジュラー天国へのいざない【2】
セミモジュラー天国へのいざない【3】
セミモジュラー天国へのいざない【4】
セミモジュラー天国へのいざない【5】
MOOG DFAMレビュー
DFAM強化計画(ユーロラック編)
DFAM強化計画(筐体編)
Moog Subharmoniconレビュー
Labyrinthのレビューもいつか書きます。いつかね。
◯まとめ
こんな風に、モジュラーシンセと聞くと敷居が高そうに思われますが、
セミモジュラーから始めれば比較的ラクに導入する事が出来ますし、
それが自身の好みに合わなかったら売ってしまえば良いのです。
キモは
「手持ちの機材全てをモジュラーシンセに固執する必要は全くない」
「モジュラーが主役である必要もなく、グルボやDAWのサブシステムとしても有益」
といったところです。