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「音が移動する」Suzanne Ciani×Actressが描いたクアドラフォニック空間。NU Festival 2026レポート

2026-07-11
in Event

2026年6月26日-28日、「TAKANAWA GATEWAY CITY」を舞台とした都市型フェス「NU Festival 2026」が開催された。本イベントで11年ぶりの来日を果たしたシンセサイザーのパイオニア・Suzanne Cianiと、Actressによるセッションの様子をリポートする。

“都市型フェス”ならではの快適さ

バルセロナの音楽フェス「Sónar」をコラボレーターとして迎えた本イベントでは、ライブやデジタルアートから、生成AIをテーマとした体験展示まで、さまざまなプログラムが展開された。言葉で説明すると混沌とした印象を受けるが、実際に足を運ぶことで全体像が浮かび上がる、”知覚する”フェスと言っても良いかもしれない。

会場となった「TAKANAWA GATEWAY CITY」は今年3月にグランドオープンしたばかり。しかしすでに、都市型フェスの拠点として注目度が上がっている。

イベントは駅構内の商業施設から、駅から最も離れた「MoN TAKANAWA」まで、街全体を使って開催されたが、快適に楽しむことができた。駅から直結して雨にもほとんど濡れることはなく(一部屋外ステージもあるが)、移動がとにかく楽。それぞれの施設は空間にゆとりがあり過ごしやすく、食事の選択肢も多い。

帰りたくなれば、改札はすぐそこ。この”快適さ”の地盤の上に、これから書く濃密な音響体験が積み上がっていた。

シンセサイザーのパイオニア・Suzanne CianiがActressと共演

2026年6月28日、「NU Festival 2026」のメインライブ会場であるLINKPILLAR Hall。最終日に組まれたのは、ActressとSuzanne Cianiによるコラボレーション・ステージだった。

「Sónar」自体がエレクトロニックミュージックや実験音楽を起源としていることもあり、出演アーティストは新鮮な驚きにあふれるラインナップ。Suzanne Cianiはおよそ11年ぶりの来日である。スザンヌによるクアドラフォニック(4chのサウンドシステム)を、これだけの規模の会場で体験できる機会は貴重だ。

●音が”移動していく”

まず体感として際立っていたのは、音の遷移のわかりやすさだった。

クアドラフォニックは、4台のスピーカーがそれぞれ対角線上に配置され、身体全体を包み込むような音響が特徴だ。音は会場のなかを移動していく。点として鳴るのではなく、軌跡を描くように動いていく。ステレオのL-R 2chに最適化された自分の試聴感覚とは、明確に別物だった。

スザンヌのブックラから出てくるのは、濃厚なノイズと深いローエンドだ。そして彼女は、リアルタイムでパッチングを書き換えながら音を組み立てる。

完成されたトラックを流すのではなく、目の前で音響が立ち上がり、変質していく…。ここで起きているのは”再生”ではなく、”生成”だった。その生々しさが、クアドラフォニックの空間と分かちがたく結びついていた。

●会場を”歩く”という聴き方

ライブを観る場所によって音響体験が異なることも面白い。会場奥のバーへ向かいながらホールを歩いてみると音の聴こえ方は空間的にも時間的にも変化していった。

スザンヌとActressはフロアの中心で向かい合い、まるで地下格闘技のようにセッションを展開する。スザンヌ側のフロアではメロディアスなアンビエントの奥に緊張感のあるビートが潜み、Actressの側へ移ると、力強いテクノへと姿を変える。

通常のライブは演者に向かって、あるいはスピーカーに向かって聴くのが前提になっている。だが、クアドラフォニックでは、左右についた耳を、好きな音がする方へ傾けてみる。たったそれだけで新しい発見があった。

聴く側が能動的に動き、聴くこと、そのものが体験となる。それが「NU Festival 2026」の面白さだと思う。

思い出したのはDaniel Wangの「DJを見つめるな」という言葉だ。視線を演者から外し、音そのものに身体を委ねたとき、ようやくこの空間の設計が腑に落ちる。

Actressが踏み込む”ダンスミュージック”

ドラムのスネアとシンセの音が混ざり合っていく。スザンヌの電子音楽を素材に、Actressがそれをダンスミュージックへとアプローチしていく瞬間があった。

2人の演奏はアカデミックな音響実験に閉じず、身体が動く方向へと音楽を引き寄せていく音だ。L-R 2chが当たり前になった現代に、正面から食らわされる一撃だった。聴く姿勢そのものを問い直してくる。

クアドラフォニックは単なる再生方式の違いなのではなく、音楽との向き合い方を更新する体験なのだと、あらためて実感した夜だった。

<文:sakana 編集:お雑煮 写真:Yukitaka Amemiya、So Hasegawa (NU Festival)>

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