
Instagramを中心に、モジュラーシンセを用いた映像作品を発信するWac-Loungeさん。去る4月19日には、日光でアンビエントイベント「AMBIENT NIKKO」を主催するなど、モジュラーシンセから得たインスピレーションをもとに活動の幅を広げています。今回は、モジュラーシンセとの出会いや、その美学について伺いました。
モジュラーシンセの原点は「Stereolabへの憧れ」

Wac-Loungeさんの音楽において象徴的な役割を持つモジュラーシンセサイザー。その世界に魅了されたきっかけを聞きました。
「モジュラーシンセが欲しくなったのは、Stereolab(※)の影響です。とくに『Dots and Loops』というアルバムが好きで。1990年代の後半、彼らが『サウンド&レコーディングマガジン』の表紙を飾ったときのインタビュー写真で、ティム・ゲインの機材にDoepfer社のA-100システムが写っているのを見たんです。それで一気に興味を持ち、FiveG(※)に駆け込みました」
※Stereolab:1990年のロンドンで結成されたポストロックの先駆け的バンド。アナログシンセを多様し、エレクトロニカやさまざまな要素の音楽を取り入れながら独自の音楽を築いた。
※FiveG:東京・原宿にあるシンセサイザー専門店
当時はラックマウントタイプのシンセサイザーで制作をしていたというWac-Loungeさん。
「A-100 miniっていう、6Uのラックに入ったシステムがあったんですね。おそらくMinimoogと同じ機能を持ったシステムなのですが、初めに買ったシンセサイザーがこれでした。当時はOverheim Matrix-1000とか、Novation Bass Stationとか、Roland JP-8080などを持っていたのですが、手持ちの機材では、どうしてもStereolabのような音が出せなくて。なにが違うんだろうと思っていたときの出会いでした」
実際にA-100 miniを導入してからは、サウンドが大きく変わったそうです。
「フィルターの音が、それまで使っていた機材とはまったく違いましたね。ギターとか、色々な機材をパッチングして音づくりに没頭していました」
その後、一度音楽から離れていましたが、コロナ禍をきっかけに活動を再開。
「久しぶりにモジュラーシンセに触れたら、ユーロラックの世界がものすごく進化していて本当に驚きました。Pinterestで壁一面にモジュールが埋め込まれている写真を見たときは、あまりの光景にCG合成かと思ったくらいです(笑)」
なかでも衝撃を受けたのが、Mutable Instruments社のモジュールでした。
「Mutableのモジュールはコストパフォーマンスがいいんです。モジュールにアッテネーターが付いていて、買い足さなくてよかったり。企業理念に近いところに惹かれたのもあります。今でも安定して使えるプロダクトだなと思います」
映像でモジュラーシンセの美しさを引き立てる

Wac-LoungeさんがInstagramで発信している映像作品「Wabi-Sabi Frames」は、小さなラックを組み合わせた独自のビジュアルが特徴です。その表現の背景を伺いました。
「最初は、モジュラーシンセのパッチケーブルが描く曲線がすごく美しいなと思ったんです。この曲線の美しさをうまく表現するにはどうしたら良いか考えたとき、ケーブルのラインを活かす背景の余白、”間”が必要だと気づきました。そこで、ラックとラックの間に隙間をつくることにしました」
最小規模のラックを組み合わせる構成にも工夫が詰まっています。
「大きなラックで撮影すると、モジュールひとつひとつのデザインが埋もれてしまう。小さなラックに収めて、モジュール自体のデザインが映るように撮影することで、プロダクトとしての美しさとケーブルの曲線の両方を際立たせられると考えました」
ところで、Wac-Loungeさんは教授資格を持つ書道家でもあります。モジュラーシンセに抱く感覚は、ご自身の書道の経験も影響していると言います。
「書道も文字と余白のバランスが重要です。書道は人それぞれ、文字のバランス感覚が絶妙で個性が出てきます。さらに日本の仮名文化では、歌の中に同じ文字が出てきても、あえて違う書き方をする『遊び』があります。こういった感覚は、モジュラーシンセの偶発的に音楽が生まれるジェネレーティブな要素と通じるものがあるなと感じています」
モジュラーは表現を形にする“タレント集団”
長年向き合ってきたモジュラーシンセについて、Wac-Loungeさんはこう表現します。
「僕にとってモジュラーシンセは、“タレント集団”のようなものです。主役はモジュールたちで、僕はマネージャー兼プロデューサー。僕がやりたいことや表現したいイメージを、ステージに立って形にしてくれる存在です。モジュールを選ぶ楽しみにもそういった、プロデュースしているような気持ちがあると思うんです」
その“タレント”の音に、逆にインスピレーションをもらうこともあるそう。
「ときには、僕の想像とはまったく違う方向に進んでしまうこともありますが、それもまた魅力だと思っています」
Instagramでの発信からライブ、イベント主催まで活動の幅を広げるWac-Loungeさん。今後の展望についても伺いました。
「モジュラーシンセの自動演奏を活かした、さまざまなインスタレーション作品に挑戦したいです。原宿クエストで行われたYOSHIROTTENさんのインスタレーションに参加しましたが、今後もギャラリーなどの空間で、おもしろいことができたらいいなと考えています。アンビエントイベント『AMBIENT NIKKO』も、音楽という枠を超えて、アートや工芸・クラフトなど、さまざまなジャンルのアーティストを巻き込んでいきたい。今後、このイベントが地域と都市をつなぐきっかけにもなれば嬉しいです」
プロフィール
Wac-Lounge
クリエイター和久英明によるソロプロジェクト。
エレクトロユニット”eureka!”としてCDアナログなど国内外で多数リリース。フランクフルトのフィルムフェスやドイツツアーを経て、イタリアンヴォーグ、南ドイツ新聞にインタビュー掲載されるなどヨーロッパでも注目を集める。
また他アーティストのアレンジ、リミックスワークや”BALLY”、”私の部屋”、テレビ番組等々へ多くを楽曲提供。
コロナ以降Wac-Lounge名義でモジュラーシンセをモチーフとした動画作品を展開する。ロンドンNTSラジオではDJ Gigi FMによるプログラムにて60分のアンビエントミックスを披露。またHITACHIの環境問題にアプローチしたコンテンツやYoshirottenによる原宿クエストでのインスタレーションに参加。
